麻の織物は夏着物の代表で、いろいろな産地で作られています。
7月と8月は、この時期しか使えない夏限定の素材を着用するため、麻着物は夏の季節にピッタリです。
女性用や男性用もあり、着物や帯のほか、長襦袢や肌着、半衿など和装小物にも麻の素材は使われています。
今回は、涼しくて着心地がよい、夏の普段着物によく使われる「麻」についてご紹介します!
麻の着物の特徴
夏は麻着物が涼しくてよいといわれますが、理由は通気性や吸湿性に富む素材であることです。
日本の夏は湿気の多い気候なので、風通しがよく、水の吸収と発散性がある麻着物は、昔も今も変わらず愛用されています。
着用時期を区別するため、袷(あわせ)や単衣(ひとえ)とは別に、7月から8月の盛夏に着るきものを薄物(うすもの)と呼びます。透け感のある麻の着物は薄物に分類されます。
6月や9月の単衣の時期は夏日も多く麻着物も着用できますが、10月には袷の時期に入りますので麻の着物は仕舞い、冬の準備をします。
麻の素材は、着物や帯に使われる麻のほとんどが昔から日本で栽培されていた苧麻(からむし・ちょま)と呼ばれるラミー繊維で作られています。
苧麻の糸は太くて長く、繊維は丈夫でしっかりしているので着物の素材として適しているためです。
亜麻(あま)のリネン繊維は短めで細くやわらかいため、木綿と交織の綿麻(めんあさ)で作られているものが多いです。
和装では作られるものによってそれぞれ糸の太さや品質などが変わり、一般的に上質な細い糸は着物に、少し太めの糸は帯に使われています。
半衿など着付け小物や襦袢も、麻の生地で揃えることにより通気性が良くなります。
その他には、部屋着でも着られている作務衣(さむえ)やステテコ、その他に割烹着(かっぽうぎ)などもあります。
麻の着物は絹とはちがい自宅でも洗濯ができます。また着込むほどにやわらかさが出て肌なじみがよくなるのが特徴です。
格に関しては、麻は織りのきものに分類されるのでカジュアル用になり、フォーマルには向いていません。
麻の着物の歴史
日本の麻の歴史は古く、縄文時代の遺跡から麻の繊維が発見されたという記があり、弥生時代には神武天皇の命により、日本の各地に麻を植えて布をつくるようになったと伝えられています。
丈夫な麻は夏に限らず日常に密着した布で、「万葉集(まんようしゅう)」の文献に麻織物に関する記述もあり、古代から奈良時代にかけては庶民の衣類に使われていました。
平安時代に現在の原型である着物が作られてからは、庶民の衣服のほかに、上流社会や武家社会の服装にも使用されるようになります。
江戸時代には武士の裃(かみしも)にも麻が重用されましたが、木綿が普及すると庶民の衣類は綿織物に移り変わっていきます。
明治時代に入ると、絹の製糸工場ができるにつれ絹生地の着物が多く出回り、木綿の人気もあいまって、麻の着物は減少していきました。
現在では、苧麻から糸をつくり手績み(てうみ)の作業ができる人も高齢となり、名のある本麻織物の生産が少なくなっています。アンティークの麻上布や藍染は特に希少で、リメイク素材としても人気です。
麻の着物の種類
着物の麻生地は、シボという凹凸感がある「縮(ちぢみ)」と、細い麻糸で織られたシボの少ない平織りの「上布(じょうふ)」があります。
縮(ちぢみ)について
縮とは、糸に強い撚り(より)をかけて織り、生地の表面にシボを出す技法のことで、麻縮(あさちぢみ)が一般的ですが、絹や綿などの素材にも使われます。
縮は生地にシボがあるため肌に張りつかず、さらりとした着心地があり、夏でも涼しく着ることができます。
上布よりも比較的安価で、最近では反物ではなく仕立て上がった状態の浴衣としても売られています。
代表的な麻縮の織物には、新潟県小千谷市周辺で織られている小千谷縮(おぢやちぢみ)があり、国の重要無形文化財に指定されています。
新潟県十日町の明石縮(あかしちぢみ)は、蝉の翅と呼ばれるほどの薄さがありサラリとした生地で着心地が良いのが特徴です。
その他には滋賀県の近江縮(おうみちぢみ)が有名です。
上布(じょうふ)について
上質な麻布を上布と呼び、薄手の平織り麻織物に対して用いられます。
麻を細かく裂いて紡ぎ、撚り合わせる手績みの糸で織ります。ひんやりとした感触とさらりとした肌触りで、軽く張りがあり、通気性に優れています。
昔から幕府に献上していたものが多く、現在も上布は各産地で作られています。伝統的技法で生産されているため、希少性が高く高級で、市場に出回ることも少なくなってきました。
宮古上布(みやこじょうふ)は沖縄県宮古島で作られている麻織物で、布を叩く「砧打ち(きぬたうち)」を多く行うので光沢があります。
越後上布(えちごじょうふ)は、新潟県の南魚沼市で生産されている麻織物で、反物を雪の上に広げて日光にあてる「雪晒し(ゆきざらし)」を行うため、漂白され色鮮やかになります。
宮古上布、越後上布とも国の重要無形文化財に指定されています。
石川県能登地方で生産されている能登上布(のとじょうふ)は石川県無形文化財に指定されています。
その他に沖縄県八重山郡の八重山上布(やえやまじょうふ)、滋賀県の近江上布(おうみじょうふ)などがあります。
まとめ
最近では新潟県の小千谷縮と越後上布の麻織物が、2009年に日本の工芸品で始めてユネスコの無形文化遺産に登録されています。
お店で販売されている麻織物の値段は、リーズナブルな価格から上布のように高級な麻までさまざまありますので、使用頻度や用途にあったものを選ぶのがベストです。
現在は、厚手に仕立てられている透け感が少ないものも作られており、初夏や初秋も着ることもでき、麻着物の需要も広がっています。
この機会に夏の和装に麻の衣類を取り入れて着こなしてみてはいかがでしょうか!